製造業について

4月21日号のトップ記事は、「製造業 第三の産業革命」という興味深い記事だったので、備忘録の意味も込めて、簡単に紹介したいと思います。
記事によれば、第一の産業革命は18世紀終期、イギリスの繊維産業における手作りから工場生産への転換、第二の産業革命は20世紀初期、アメリカの自動車産業におけるライン生産方式の導入による大量生産の実現であって、現在第三の産業革命が起きているとのことです。その内容は、製造のデジタル化と、それによる個別化・カスタマイズされた生産(mass customization)だと主張しています。具体的には、ユーザーの設計に基づき印刷したもの(インクの代わりにアルミ等の材料を使用)を、層状に積み上げていくことで立体的な製品を生産する「3次元印刷」や、ネット上のコミュニティからユーザーの嗜好やアイディアを集約し、それを最終製品へと作り上げていく「クラウドソーシング」が例として挙げられていました。
さらにEconomist誌は、そうした製造方法の革命は、製造メーカーの生産工場を中国等の新興国から先進国へと引き戻すだろうと予測しています。その理由として、(1)ユーザーの需要や嗜好の変化に素早く対応することが重要であること、(2)より洗練された製品を製造するためには、デザイナーやエンジニア、IT専門家、マーケティングスタッフが同じ場所で働くことが重要であること、(3)中国の賃金は年率20%で上昇していること、が挙げられていました。


ここからは私見です。日本の製造業への依存体質への批判を見ることがありますが、僕自身は、製造業は日本経済にとって極めて重要な産業だと考えています。理論的な武装は十分できていないのですが、大きく4つほどの理由があると思います。(1)製造業で作られる製品は世界中に輸出可能であり、経常収支の改善に寄与すること、(2)製造業は部品産業も含め波及効果が大きく、雇用の創出に寄与すること(自動車産業が良い例だと思います)、(3)製造業は多大な研究開発投資を行っており、イノベーションの源泉であること、(4)日本の強みを生かせる業であること(国内の大学や研究機関で行われている高いレベルの研究、日本人の繊細さや勤勉さといった特性、安全性や高品質等の日本ブランド)

僕自身は、今の役所に入った理由の一つに製造業の国際競争力強化に取り組みたいという思いがありました。実際、僕の周囲にいった工学部や農学部等の理系学部の優秀な学生のほとんどは、進路として製造業を選択せず、コンサルや金融、商社等の分野に進んでいて、製造業が優秀な学生にとって魅力的な進路でなくなっていることに危機感を覚えました。
幸運なことに、入省以来現在まで、製造業の振興を行う局で働かせてもらっています。もちろん、特定産業への補助金等の産業政策的な支援方法ではなく、EPA等の経済連携の推進による競争環境整備や、貿易保険や輸出金融といった側面的な金融支援等、様々な角度からの支援を考えていく必要があるかと思います。これからも、働く部署が変わったとしても、中長期的な視点でこのテーマは追い続けていきたいと思っています。