「活米」という流儀−外交・安全保障のリアリズム−

野田内閣で首相補佐官を務めた長島昭久衆議院議員の本を読んだので、記録にしておきたいと思います。

1.第一章:外交・安全保障のリアリズム
リアリズムは、国家と国家の力の均衡(balance of power)こそが秩序を形成するという考え方。他方、リベラリズムは、経済的な相互依存や民主主義の普及とともに、国際法・制度を幾重にも構築することで社会全体の安定を図るという考え方。筆者はリアリズムの考え方をとる。


2.第二章:中国の台頭とその戦略
中国は国防予算を過去24年で30倍にし、そのうち過去15年あまりを海洋戦力の増強に集中投資。
中国の戦略は、「孫子の兵法」に忠実に、戦わずして勢力圏を拡大していくもの。すなわち、強大化した国力を背景に米国との関係をマネージしつつ、中国にとって有利な戦略的環境を整え、最後には対抗心を喪失させる
中国はその圧倒的な経済力を背景として軍事的な布石を着々と打ってきており、影響力を東シナ海南シナ海といった西太平洋に止まらず、インド洋や北極海にまで拡大していこうとしている。


3.第三章:米中は衝突するのか
オバマは、アジア大洋州地域へ重心を移す「アジア・ピヴォット(アジア旋回)」のコミットメントを示したが、その戦略を支える財政資源の確保ができるかが課題である。また、そもそも第二期オバマ政権では、アジア大洋州地域の平和と安定に対するコミットメントを引き続き強く持っているのか、疑問が生じている。
今後、米国の大戦略は、従前の米国が負担してきた同盟国等の安全保障に係るコストとリスクを各国に転嫁させる「オフショア・バランシング」戦略となると思われる。理由として、(1)財政の制約(国防予算の二割削減を視野に入れている)、(2)国際的な関与政策から、孤立主義(非関与・不干渉主義)への誘惑(2013年のシリアに対する軍事制裁に関する逡巡から見てとれる)、(3)シェール革命(米国はエネルギー自給を実現し中東湾岸地域への関心を失う)、の3つの米国内の情勢変化が挙げられる。


4、第四章:対中戦略の土台をつくれ
日本は歴史的に一貫して海洋国家であり続けた。また、日本の輸出入の99.8%は海洋を通じた通商交易により、排他的経済水域EEZ)で世界6位、体積では世界4位である。こうした日本は海洋国家であるという地政学的な自己認識を踏まえて、安全保障のあり方を決定していく必要がある。
米国や豪州、インドネシア等の有志国と、海洋を中心とする地域秩序を再構築し、アジア大洋州地域に平和と安定と繁栄を保障することが、海洋国家日本の最大の使命
安倍首相は、インドを戦略の中核に据えているが、インドは非同盟主義であり、「みんなが恋をするけど、実らない」国である。中国をめぐる潜在的な利害は共有しているため、粘り強く静かに関係を強化していくことが重要である。

今まで全く学んだことのなかった外交・安全保障について学びたいと思い、この本を手に取りました。数ある本の中からこの本を選んだのは、筆者が一つ前の野田内閣の時に日本の安全保障戦略のキーマンであり、また、筆者が私が個人的に関心を持っているジョンズホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号を取得しているためです。
個人的に面白いと思ったのは、日本は歴史的にもデータ上も「海洋国家」であり、日本は海洋を中心としてアジア大洋州地域の安定に貢献すべき、尖閣諸島も、その観点から、日本の安全保障に直結する戦略的な要衝であるとの筆者の考えです。また、米国が国際的な関与を弱め「孤立主義」に陥っていると思われ、その理由の一つとして、シェールガス革命により中東湾岸地域にエネルギーを依存する必要がなくなってきたことを挙げている点が興味深かったです。
私自身、この分野の学習が浅く、まだ定まった考えはありませんが、安全保障や経済・エネルギーの分野で、日本はその国力や技術力に見合った貢献をしていくことが必要だと思っています。特に、日本と地理的に近接し、急速な経済成長を遂げ、日本企業にとってもビジネスチャンスの大きいアジア大洋州地域で積極的にリーダーシップを発揮し、国際的な影響力を高めていくべきだと思っています。今後、アジア大洋州地域で日本がどのような貢献をできるのか、しっかりと勉強していきたいと思います。