東京大学の俯瞰経営学

東大の技術経営戦略学(TMI)の元教授、現イノベーション政策研究センターのセンター長、松島先生の著書。TMIの僕らの代(TMI3期生)の俯瞰経営学の授業の内容をまとめたものです。この本を読んで俯瞰経営学という授業は、僕ら学生にとって最も成長を実感でき、また最も強烈な印象を残した授業だったと同時に、松島先生自身にとっても試行錯誤を積み重ね改善してきた教育プログラムの集大成だったことが分かりました。
この本には毎回のテーマごとの最優秀発表が掲載されています。僕は産業用ロボット技術で有名なファナックという企業の班だったのですが、最優秀発表に選ばれた三回分がこの本に収録されていました。自分たちがほぼ徹夜で議論を重ねて作ったパワーポイント資料が、書籍という形で一般に公開されていることに感動を覚えました。
この本は、ビジネスについて全く知識がない大学生や技術者が、会計やマーケティング、経営戦略、リーダーシップ、人材マネジメント、技術戦略といったものを大雑把に俯瞰的に理解するという意味では価値はあると思います。章末にはより深く勉強したい人向けに参考文献も載っているので、この本を通じて興味を抱いた分野を掘り下げるのも可能だと思います。ただ、勉強を積み重ねてきたビジネスマンにとってはやや退屈な本かもしれません。


東京大学の俯瞰経営学―技術経営戦略学専攻講義

東京大学の俯瞰経営学―技術経営戦略学専攻講義

・ビジネスの実務において最も重要な能力は、情報の収集、分析、編集のスキルである。
・具体的には、従来の紙の資料の読解能力に加え、Webでの情報収集能力、そして収集した市場情報、財務情報、技術情報などの分析能力、それを論理構造のある情報として編集し、明快で説得力のある資料を作成する能力が必要である。
日経新聞の経済記事を完全に理解するためには、ビジネスリテラシーが必要である。もし日経新聞の経済記事を高い水準で理解する能力があれば、社会に出てから日々経済知識を身につけることができ、何年か経つうちに大きな差となって表れるだろう。


価値のある仕事を生み出すためには、情報の収集、分析、編集のスキルが最も重要だという主張は非常に説得力がありました。膨大な量の情報の中から本当に重要な情報を抽出し、それを論理的に分析し、その上で社会や他人にとって意味のある形に編集し直す能力は、今後ますます必要になってくるように思いました。
僕自身、毎日修士論文の作成に向けて研究する中で、常に膨大な量の情報と向き合っています。僕の場合電気自動車の普及に関する研究を行っているので、電気自動車の構造、ハイブリッド車燃料電池車など他の競合製品の動向、リチウムイオン電池の技術開発状況、国内・海外の自動車メーカーの動向、自動車の補助金政策など、関連する情報の量があまりに多く、ともすれば情報をただ収集することだけに大半の時間を使ってしまいがちです。情報の収集に時間をかけすぎず、むしろ収集した情報を自分なりの手法・ツールを用いて分析し、分析した情報を相手の共感が得られるようなストーリーに編集し直す作業に、これからもっと時間を使いたいと思いました。