海外研修2009その3

(4)起業家・吉川欣也さんのお話

吉川さんは法政大学法学部を卒業後、日本インベストメント・ファイナンス社というベンチャーキャピタルなどを経て、27歳でネットワーク構築のコンサルティング等を行うデジタル・マジック・ラボ社を、32歳でルーターのソフトウェア開発を手掛けるIP INFUSION社を、そして2008年に三社目に当たるMiselu社を起業した方です。今やシリコンバレーで成功した日本人起業家の代表的な存在になっている方です。
僕自身は今のところ「起業したい!」という願望そのものはあまりありませんが、シリコンバレーで三つの会社を起業した経験を持つ吉川さんのお話には学ぶ点が非常に多くありました。以下、その要旨です。

【起業する上での心構え】
・なるべくアイディアを隠さないで、人にどんどん話してフィードバックをもらうことが重要。友人や彼女、家族、先生に包み隠さず話をしてみることで、自分のやりたいこと、コアを改めて確認することができる。
個人魅力は鍛錬のたまもの。組織名を言わずに、個人名を覚えてもらえるくらい自分を売り込めるかどうか。個人魅力を高めるためにも、本をたくさん読んだり、ビジネスマンだけでなくアーティストなどあらゆる分野の人といっぱい会うことが大事。学生のうちは、せめて世界10カ国の友人を作るくらいの幅広い人間関係を築いておくといい。
自ら変化を作り出し、イノベーションを起こすことを心がける。例えば自分の研究テーマ、働く場所、住む場所、日々の行動パターンを意識的に変えたりしてみる。
自分たちが描く未来を信じて、日々の地道な仕事を粘り強くこなすことが重要。精神論に聞こえるかもしれないが、努力、継続、粘りという性質は、日本人の一番強いところでもある。
誰もやっていないことは、自分がまずやってみて、やり続ければ一番になれる。吉川さん自身も、法学部出身だったが1993年にITに出会い、まだ新しいITという分野をひたすら掘り下げて強みを築いてきた。

吉川さんが語ってくれたエッセンスは、起業という分野に限らない話だと感じました。例えば今僕は研究が思うように進まずやや壁に当たっていますが、毎回の研究会でアイディアをどんどん先生方や同期メンバーに話してフィードバックをもらうことが重要だと感じました。また自分の行っている手法(System Dynamics)で研究が上手くいくと信じて、日々地道に文献調査やSystem作りに励み続けることで、道は開けるのかなと思いました。




(5)サンフランシスコ総領事・長嶺さんのお話
最終日のFarewell Partyで、サンフランシスコ領事館、総領事の長嶺安政さんと直接お話しさせていただくことができました。長嶺さんは東大教養学部卒業後、外務省に入省し、途中オックスフォード大学への留学や多くの部署での経験を経て、現在サンフランシスコ領事館の総領事として、サンフランシスコに住む日本人の保護や、現地での日本のプレゼンス向上などに取り組まれている方です。長嶺さんから、TMIの学生に向けてエールのお言葉をいただきました。

(1)リーダーの条件は、誰にも解けない複雑な問題を解けるということ。
(2)異質な文化、人に対する寛容さを持つこと。
(3)仕事で困難にぶつかった時には、古典を初めとした"基礎"に立ち返ること。
(4)日本のために頑張るという気持ちを持ち続けること。

(1)に関しては、今研究で行き詰っていて、研究テーマをもう少し易しいものに変えようかと弱気になっていたので、励みになりました。特に僕の所属するTMIは、科学技術と経済学・経営学の素養の双方を身につけ、環境問題など社会問題の解決を行える人材や産業政策の中核を担う人材の育成を目標に掲げています。将来、技術経営という分野でひとかどの人間になろうと思っているのならば、修士論文程度で逃げ腰になることなく、誰にも解いたことのない問題を自分こそが絶対に解いてやるんだという気概を持って、日々の研究に取り組むべきだと改めて思いました。
(2)に関しては、石井さんがおっしゃっていた"Openness"の話と重なると思いました。やはり、変化の激しい時代において、"Openness"というマインドを持って、常に柔軟に新しい考え方を自分の中に取り入れていくことは必要不可欠なのだと改めて感じました。
(3)については、僕にとっては耳の痛い話でもありました。僕は今まで、読みやすく即効性の高そうなビジネス本の類に手を伸ばして読むことに慣れてしまい、堅い言葉で記述された取っ付きにくい古典的な名著を読むことを避けてしまっていました。しかし長嶺さんは、何百年も読み継がれている古典的な名著には人間の本質的な性質や心理についての洞察が深く鋭く描かれていて、現代でも仕事をする上で拠って立つべき基礎となる、とおっしゃっていました。長嶺さん自身も、オックスフォード大学の哲学・政治・経済の修士過程で学んでいた時に、ホッブズやロック、ルソーといった古典の原著を繰り返し読むことを続けていたそうです。




(6)総括
今回の海外研修にTAとして参加するに当たり、主にこれから社会人として働く上での心構え・マインドを一流の起業家やビジネスマン、教授たちから学びたいという想いを持っていました。
研修期間中は、M先生、石井さん、吉川さん、長嶺さん、それぞれアカデミックな世界やビジネス界、行政の世界の最前線で活躍されている方から、ありがたいお言葉をいくつも頂きました。それぞれの方がおっしゃっていたアドバイス・お言葉は異なるので一言にはまとめることはできません。ただ、今後の大学院生活・社会人生活に向けて非常に大きなプラスの刺激を受けることができました。海外研修をご支援してくださったトランスコスモス社や同行してくださったM先生、五日間の研修を共にしたTMIの修士一年のみんな、ありがとうございました☆



Stanford大学のキャンパス内。たまたま新歓イベントをやっていました。