あなたの話はなぜ「通じない」のか

最近とみに感じることがあります。同じ内容の発言でも、ある人が言うと全く説得力がなく、別のある人が言うと説得力がありすぐに意見が通ることがあるなぁと。この説得力の違いはどこに起因するのだろうか。
この本は、ベネッセ・コーポレーション出身で、主に高校生の小論文指導を行ってきた山田ズーニーさんの著書。本全体として一貫して主張されているのは、「何を言うかより、誰が言うか。言いたいことを聞いてもらうためには、何より自分のメディア力を高めることが大事。」ということでした。普段僕が何となく感じていたことが読みやすい語り口で書かれていて、気づきの多い本でした。

あなたの話はなぜ「通じない」のか

あなたの話はなぜ「通じない」のか

【想いが通じる五つの基礎】
1.自分のメディア力を上げる …これが話が通じる一番の基礎である。人は、好きな人の話は聞き、嫌いな人の話は聞くのも嫌だと感じる。話が通じるためには、日頃から人との関わり合いの中で、自分というメディアの信頼性を高めていく必要がある。
2.相手にとっての意味を考える …人は、自分に関係ない、意味のない話はなかなか聞こうとしないため。
3.自分が言いたいことをはっきりさせる …自分でも言いたいことがはっきりしないという状態で話を切り出すと、相手までモヤモヤさせてしまう。自分のモヤモヤした想いをはっきりさせるために、「考える」という行為がある。
4.意見の理由を説明する …言いたいことだけぶつけるのではなく、自分がそう考える「理由」を説明する。
5.自分の根っこの想いに嘘をうかない …「何を言うか」より「どんな気持ちで言うか」が大事。その人の根っこにある想い・発言の動機である「根本思想」という。根本思想と言葉が一致したとき、初めて人の心を強く打つ。


【メディア力を高めるには】
自分の日頃の営みの積み重ねによって形成していくしかない。日頃の立ち居ふるまい・ファッション・表情、人への接し方、周囲への貢献度、実績、何を目指しどう生きているか、それをどう伝えているか、それら全ての積み重ねが、周囲の人のあなたに対する印象を形作っている。
メディア力とは、その人固有の「人との信頼の体系」である。つまり、その人の歴史の中で誰とどんな関係を築いてきたか、その結果どのように想われているか、それらの集積としてどのような人のネットワークを編み上げているか、である。
初対面の人から信頼される条件とは?一言でいえば「つながり」である。つまり(1)過去から現在そして未来へと続く時間の中で、あなたの連続性が感じられること(タテのつながり)、(2)人や社会とのつながりが見えること(ヨコのつながり)、である。会社の名刺を見せれば一発で信頼してもらえるのは、会社が持つこのようなタテ・ヨコのつながりのおかげである。


僕自身今までは、自分の意見を通したいと思う時、どういう論理構成にしたらいいか、どういうプレゼンテーションの形態をとればいいのかといった小手先の技術ばかり学んできていたので、一番大事なのはその人自身のメディア力なんだという話にはハッとさせられました。ビジネスマンでも行政官でも研究者であっても、人を説得し自分の意見を通すことが求められる仕事においては、周囲との信頼関係を蓄積して自分のメディア力を高めることが何より大事なんだなと改めて感じました。同じようなことが「7つの習慣」という自己啓発本にも、"emotional bank acount"という比喩で書いてあったように思います。
面白いなと思ったのは、メディア力には正のスパイラル、負のスパイラルがあるという話です。「信頼を蓄積する」→「自分のメディア力が向上する」→「自分の意見・発言が通る」→「さらに信頼が蓄積する」という正のスパイラルがある一方で、周囲からの信頼を一旦失ってしまうと、自分のメディア力が低下し、意見が全く通らず周囲から孤立し、さらに周囲からの信頼が小さくなるという負のスパイラルに入ってしまうということです。個人的には人として当たり前のこと、メールにきちんと返信する、時間を守る、約束を守るといったことの積み重ねこそが信頼の蓄積につながるんじゃないかと感じているので、自戒の意味も込めて今後気をつけたいと思いました。
初対面の人から信頼されるには、タテのつながりとヨコのつながりを相手に見せることが重要だという話も印象的でした。僕自身、異業種交流会のようなものに参加したことが何度かありますが、中々初対面の人と信頼関係を結ぶことができないなぁと悩んでいました。最近では、シリコンバレーの海外研修でビジネス交流会に参加した時、英語という壁ももちろんありましたが、誰とも全く有益な人間関係を結ぶことができなかったことを悔しく思っていました。一方で、相手と共通の知人がたまたま一人いたり、同じ高校の卒業生だったというような理由で、初対面の人と一気に距離が近くなるような経験をしたこともありました。また、自分が過去に経験してきたことと現在やっていること、そしてそれが将来の夢にどうつながっているかといった青臭い話を思い切ってしてみたところ、初対面の人とでも一気に信頼関係を築けた経験があります。これから働く上では、学生時代のように時間をたっぷりかけて少しずつ信頼関係を作っていくというわけにはいかなくなる場面も多いと思います。初対面の相手と信頼関係を築いていくためにも、自分自身の中の過去から現在、未来への一貫性、そして友人やお世話になった人との交友関係・つながりを大事にしていきたいと思いました。