公共事業が日本を救う

9月22日まで10日間、ある建設企業で企業研修をさせていただいた。その中で、同企業の経営陣の方に課題図書に薦められ読んだ本。筆者は、民主党政権の掲げる「コンクリートから人へ」というスローガンの下に公共事業費を削減することは国を滅ぼすことになると主張している。


公共事業が日本を救う (文春新書)

公共事業が日本を救う (文春新書)

・十分な検証を行うことなく公共事業そのものを否定するような論調が蔓延している。しかし、日本の現状を打破するためには、公共事業を強力に推進することが必要である。
・公共事業は不要だとの批判は、誤ったデータに基づいている。例えば、日本は公共事業費が高い、道路水準は世界でトップクラスであるから道路事業は不要だといった批判があるが、筆者が再検討したところ、比較年度を統一すれば日本の公共事業費は先進国並み、車の保有台数1万台あたりの道路の長さでみれば日本の道路水準は他の先進国と比べ非常に低いレベルであることが分かった。
スウェーデン街のようにクルマのない豊かな街の暮らしを実現するためには環状道路の建設や電線の地中化といったハードな公共事業が必要。他にも、アメリカの二の舞にならないために老朽化した橋の補修・更新を行うこと、日本の貿易の競争力を高めるために横浜港や神戸港を大型化すること、利水と治水を目的としたダムを建設すること、高速道路ネットワークを構築・拡大すること、巨大地震に備えるために建物の耐震工事が必要であること、といった理由から公共事業は必要である。
・さらに、公共事業は日本が長年の間苦しんでいるデフレの解消にも寄与する。政府が国債を発行し大規模な財政出動を行い、需要を創出することは、デフレ解消の一つの解決策になる。中でも、建設産業は他産業に対する波及効果や雇用創出効果が非常に大きいため、デフレ解消への寄与度は大きい。

公共事業は不要だとする論調を真っ向から否定する内容となっており、読んでいて非常に新鮮で面白かった。私自身は都市工学科出身であり、都市を豊かにするためにも、社会・経済活動の基盤としてのインフラを整備するためにも、公共事業はある程度推進し続ける必要があると考えてきたので、共感する部分が多かった。しかしながら、著者は京都大学の土木の教授であり、土木・建設産業の必要性を主張したいがためにやや強引な議論を展開している箇所があったように感じた。例えば、ダムの建設が利水や治水のために必要との一般論は分かるが、果たして日本に本当にこれ以上のダムが必要なのかという議論が弱い印象を受けた。また、公共事業の推進がデフレ解消に寄与するとの意見については、金融緩和をはじめとする金融政策等と比べても本当に公共事業が一番有効な策なのか、高齢化社会の進展に伴い社会保障費が増大する中で本当に公共事業費をこれ以上増やすべきかについて、更なる検証が必要だろうと感じた。

しかし、本書で提示された意見が、公共事業の必要性に関する議論のたたき台になることは間違いないと思う。幸い、今年3月の東日本大震災は、橋や道路を含む公共施設の耐震補強等の観点から、公共事業の必要性について再認識する一つのきっかけとなったように思う。今後も、公共事業を一方的に悪と決め付けるのではなく、公共事業の創出する経済効果や雇用創出効果について、より建設的な議論を行う必要があると感じた。