9月3日号 イギリスの高速鉄道計画について

今日のEconomist勉強会では、イギリスの高速鉄道計画について発表をした。本記事では、イギリスのロンドンと北イングランド間を結ぶ高速鉄道プロジェクトについて、「高速鉄道は採算に合わない。イギリス政府は建設計画を中止すべき。」という主張をしている。

Infrastructure projects –The great train robbery-

高速鉄道は期待されているような広範な経済的便益をもたらさないだろう。イギリス政府はこの近代化の空想に惑わされており、計画の再考をすべきだ。
○日、仏、独、西、伊、中の6カ国は、新幹線に巨額の資金を投入してきた。イギリス政府はロンドンと北イングランド間をつなぐ520億ドルの計画を考えている。他の地域での冒険的な取組みはつまずいている。(中国は7月の高速鉄道の衝突事故以来、新しい計画は一時中止しちえる。ブラジルのリオデジャネイロ-サンパウロ間の高速鉄道計画は、建設会社の関心不足が原因で遅延。)しかし、政府は依然として、高速鉄道地域間格差を解消し成長を促す助けになるという考えの影響を受けたままである。
○実際は、ほとんどの先進国における高速鉄道地域間格差を克服するのに失敗し、時に悪化させている。交通の接続の向上は、ネットワークのハブにある豊かな都市のメリットを強化している。最も商業的に成功した日本でさえも、東京は大阪よりも急速に成長し続けている。スペインの新しい鉄道路線はセビリヤの犠牲のもとにマドリッドのビジネス人口を膨らませてきた。フランスでは、パリへの本社機能の移転が起きる傾向にある。
○たとえいくつかの都市が利益を得ても、鉄道ネットワークの外にある他の地域は苦しむことになる。イギリスの一部の地域では、新しい鉄道の建設が、本数が少なく速度の遅い電車しか存在しない二流の都市を生みだすのではないかと恐れている。
高速鉄道はビジネス旅行者にとってはメリットがあるが、中国では、チケットの価格はほとんどの人々の手の届かないものであり、新しい電車は空席が多く退屈している。しかし、高速鉄道の建設は政府による巨額の投資を要するため、結局は一般の納税者がツケを払うことになる。
○安くてかつ高速の鉄道は存在しない。中国の安全性の失敗は、けちけちすることの危険性を証明した。旅の時間を短くするという観点において高速鉄道は素晴らしい工学的偉業と言えるが、それにより得られる限界利益は、その高いコストを上回ることはない
○これらのコストは倹約家からお金を奪うものであり、もっと効率的な方法があるだろう。特に小さい国では、既にあるネットワークを改良することの方がより意味があるだろう。交通容量は、電車を長くすることとプラットフォームの拡張によって増やすことができる。また、より良い信号によって旅の平均速度を高めることができる。
イギリスはこの壮大なインフラプロジェクトを中止する(=ditch:脱線させる)時間がまだあるし、そうしなければならない。他の国もまた高速鉄道路線を拡大し、導入する計画を再考する必要がある。良いインフラ計画は長く存続するものだが、悪い計画は公共資金と国の発展の大望の両方を頓挫させる(=derail:脱線させる)ものだ。

本日の勉強会での議論も踏まえ、個人的な意見を述べておきたい。

一点目は、本記事が主張するように、現在高速鉄道の導入を考えている全ての国は、本当にそれを再考すべきなのかという点である。本記事では、高速鉄道はイギリスにとって必要のないことであり、同じように他の国も導入計画を再考すべきだという論調となっている。確かに、既にある程度鉄道や道路、空路を含めた交通インフラが整備されているイギリスにおいて、520億ドルもの莫大な投資費用のかかる高速道路を建設する必要はあるのか、本当に投資額に見合った効果が得られるのか再考すべきという指摘は、的を得ているように思う。しかし、その主張を他の国にも一緒くたに適用するのはやや強引ではないか。特に、中国やインド、ベトナムといった今後も成長し続けることが見込まれ、かつ交通インフラが十分に整備されていない国では、高速鉄道計画は中長期的に見れば投資に見合う効果が得られるのではないのだろうか。また、今後これらの国にも課されるかもしれないCO2排出量の制限という観点からも、高速鉄道は自動車や航空機よりも効率的だと言える。

個人的な想いとしては、日本が成長戦略に掲げるインフラ・システム輸出の中で、高速鉄道は引き続き大きな柱にしていくべきではないかと思う。本記事にあるような高速鉄道に対するネガティブな意見も存在するが、引き続き、特に今後成長していくアジアをはじめとした新興国において、日本の誇る世界最高峰の高速鉄道を売り込み続ける必要があると考える。