ウェブ時代をゆく

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

梅田望夫さんの話題の新刊、「ウェブ時代をゆく」を読んでみた。盛りだくさんの内容でまだ全て消化し切れていないけど、非常に考えさせられることが多かったので、忘れないうちに読書記録をつけておきたい。特に、今一番興味のある、これからの働き方・キャリアについての記述をまとめてみた。

【高速道路とけものみち

  • 「世界中の情報すべてを整理し尽くす」というビジョンを掲げるグーグルにより、ネット空間は「知と情報」に関しては「リアルの地球」と同じくらい大きな「もうひとつの地球」へと発展するだろう。
  • 「知」がネット上で容易に共有されるこれからの時代は、ある分野を極めたいと思えば、高速道路を走るかのようなスピードで効率よく学習できる。そんな「学習の高速道路」があらゆる分野に敷かれようとしている。
  • しかし「学習の高速道路」を走る多くの人は、「その道のプロ」になる寸前で大渋滞にはまる。
  • 大渋滞を抜けようと「高く険しい道」を目指すか、大渋滞に差し掛かったところで高速道路を降りて道標のない「けものみち」を歩くか二つの選択肢がある。
  • どちらの道を目指すにせよ、全ての人に平等に与えられた唯一のリソースである時間を、自らの志向性と合う領域に惜しみなくつぎ込むことが、競争力を生む。(=働き者の時代)
  • 「高く険しい道」をゆくには、(1)病的なまでに心配性な人だけが生き残る、(2)アントレプレナーシップ(自分の頭で考え続け、どんなことがあっても絶対にあきらめない)、(3)バンテージ・ポイントに行く(その分野の最先端で何が起きているかを一望できる場所)、の三つを意識すべき。
  • これからの時代の成功のカギは、リアルの地球と「もうひとつの地球」を自由に行き来しながら創造的に生きること。
  • 正しいときに正しい場所にいることが重要。すなわち誰かの心に印象を残し、大切なときにその誰かから誘われる力を持つこと。

ロールモデル思考法】

  • 「好き」(志向性)を見つけて育てるための思考法が、「ロールモデル思考法」。
  • 外界の膨大な情報に身をさらし、自分の直感を信じ「ロールモデル(お手本)」を選び続ける。その際、たった一人の人物をロールモデルとして選ぶのではなく、人生のありとあらゆる局面に関するたくさんの情報から、自分と波長の合うロールモデルを収集する。その上で、なぜ自分がその対象に惹かれたのかを考え続け、曖昧だった自分の志向性を形にしていく。
  • 人や本やニュースなどの情報との出会いの中で感じる「面白かった」という直感こそが、ロールモデル思考の発端である「自分と波長の合う信号を探す」ことに他ならない。よってロールモデル思考法は「ブログを書く」ことと親和性が高い。
  • ロールモデル思考法を実践し、そのプロセスをブログで記録することは、自然に「人を褒める能力」、すなわち「ある対象の良いところを探す能力」を身につけることになる。
  • 「生きるために水を飲むような読書」とは、たくさんの本のなかの膨大な情報をブラウジングして、その時点で自分が渇望している信号を探すこと。それを行うことで、生きていく上での多様な局面に応じ、たくさんのロールモデルの引き出しを用意することができる。
  • ロールモデル思考法を行動に移すためには、(1)「時間の使い方の優先順位」を意識的に組み替えること、(2)そのためにも自分にとってかなり重要な何かを「やめること」、(3)短期的には「なれる自分」を積み重ねながら、長期的には「なりたい自分」を意識しこつこつと自分の志向性を問い続けていくこと、の三つが重要である。

この本を読んで、梅田さんが強烈に伝えたかったのはきっと「自分を信じ、好きを貫く人生を送ることこそが本当の幸福なのだ」ということだと思った。他人と比較するでもなく、自分の好きなことに没頭して生涯を過ごすのが幸せであり、ウェブ進化によってこれからはそういう生き方がますますしやすくなっているのではないか。
以前の読書記録スローキャリア - EST!EST!!EST!!!でも書いたが、先行きの見えない時代の中でキャリアを選択する際、「自分の好き」や直感に忠実に従ってもいいのではないかということと、共通のメッセージがあったように思う。

また自分自身を振り返ってみると、少なからずロールモデル思考法と似たようなことをやってきたような気はする。中学でバスケ部に入ったのも、大学受験で東大に行きたいと思ったのも、都市工学科に進学したのも、今の研究室を選んだのも、大学院の専攻を決めたのも、全て自分がカッコいいと思える生き方をしている人がそこにいたから、お手本としたい人がいたからだった。自分の今までの進路の選択の仕方が間違っていなかったんだなぁと嬉しく思えたし、これからも自分の直感を信じてロールモデルを選び続けていきたいと思った。


将来の進路という意味で他にも興味深かったのは、「大組織で成功できる要素」とは何かを述べたところだ。

【大組織適応性にすぐれた人たち】

  1. 「自分の生活や時間の使い方を他者によって規定されること」を「未知との遭遇」として心から楽しめる。
  2. 与えられた問題・課題を解決することに情熱を傾けられる。その課題が難しいほど面白いと思える。
  3. WHATへの「好き嫌い」やこだわりがあまり細かくなくおおらかで、一緒に働く人への「好き嫌い」があまりない。仮にあっても苦手を克服することを好む。
  4. 新しいゲームのルールを与えられたとき、そのルールの意味をすぐに習得してその世界で勝つことに邁進することに興味を覚える。
  5. 多くの人と力を合わせることで、一人ではできない大きなことができることに充実感を覚える。
  6. 「巨大」なものが動くことへの貢献に充実感を感じ、長時間長期の「組織へのコミットメント」いとわない。
  7. 組織への忠誠心や仕事における使命感のほうが、個の志向性よりも価値が高いと考える。

自分でも驚いたが、僕は上に挙げた大企業適応性の指標のほぼ全てに共感できた。受験勉強を点取りゲームのように考えて楽しんで取り組んでいたし、「何をするか」について好き嫌いやこだわりはあまりないし、多少個が埋没してもチームで何かを成し遂げることの方が好きな人間である。
ウェブ進化の時代の新しい働き方とは逆行するかもしれないけど、僕自身はやっぱり大企業で仕事をしてみたいなぁという気持ちが強いように思う。それは正直、今与えられた環境ならば大企業や官庁で働くチャンスがあるのに「もったいない」という気持ちがあるからかもしれない。まあいずれにせよ、自分のキャリアについてはもっと人に会ったり本を読んだりする中でじっくり考えていきたいと思う。